昨年から動きが活発になっている著作権関連の問題。
制作者への対価を支払うべき、という論が正しく適用されている結果ですが反発が起きるのは何故かしら?
2017.02.04 - 追記
右側の柱下段に音楽教室の利用についてのアンケートを設置してあります。(スマホは画面下へスクロールをお願いいたします。)
よろしければご協力ください。
JASRACが今度は音楽教室から著作権料徴収の徴収を検討しているというニュースで賑わいを見せていますが、毎回この手の話題がニュースになっても騒がれるのはほんの数日でその後はトレンドからさっさと消えてしまう事から「関心の低さ」が伺えます。
今回の件では音楽業界の関係者にも賛否両論が巻き起こることが予想されますが、寧ろ揉めるだけ揉めて後手後手になっているJASRACが改革するであるとか、新しい方式へ移行が進むなどの変革がある事に期待したいです。
ここでは今回の事例について演奏する立場での経験と過去の判例からどんな問題があるのかを検討してみたいと思います。
コンサートの場合
吹奏楽団の場合ポピュラー楽曲を演目に含める事も多々ありますし、著作権管理下にある楽曲を演奏することは珍しくありません。
この場合楽団はどの様な手続きを踏んでいるのでしょうか?
・楽譜の購入
演奏楽曲の楽譜を購入します。
これにより出版の権利により楽譜を出版した出版社に対価を支払っています。
出版社は出版の権利を著作権料を支払うことで得ているので正しく利用料を支払っている事になります。
・演奏の申請
原則的には自己申告制であり、演奏した楽曲に管理団体の管理する楽曲のある場合は楽団が自己申告を行い管理団体に演奏の権利の著作権料を支払うことになります。
この様に(少なくとも自分が居た場所では)管理された楽曲に対して対価を支払っています。
こういった申告が適切に成された場合はその利用料は管理費用を差し引いた後、権利者へ適切に配分されることになります。
適切でない運用とは?
楽団での事例を例に取って考えると適法でない行為とは次のようなケースです。
・購入した楽譜をコピーして譲渡した
A楽団は〇〇演奏してたよね?譲ってくれない?といった形でB楽団に楽譜をコピーした、会場のみなさんもご一緒に!!と歌唱部分の楽譜をコピーして配布した。
出版社が権利を得て販売している楽譜の無断複製に当たりますし、延いては出版の権利の侵害となります。
査察が入るような大きなコンサートでない限りは後者についてはほぼ黙認という現実がありますが、前者については音楽に携わるのであれば問題意識を持たないといけません。
楽団は年一回の演奏会だとしても、演奏に使用するための楽曲はお金を出して楽譜を買っています。
・コンサートやライブで上演した楽曲について自己申告しなかった
論外です、完全にNGです。
本来であればこういったロスが極めて0に近くなるように管理団体があるべきですが、網を細かくすればするほど管理コストが増大するので還元が行えなくなってしまっては意味がありません。
また利用する側は利用の申請を行って適切に使用するべきなのですが、その意識の周知が行われていない事もJASRACをはじめとした管理団体の怠慢でもあるのでそこはしっかりしていくべきなのではないかと考えています。
音楽教室ではどうか?
今回のJASRACの動きは2004年に社交ダンス教室でのCD利用を著作権料徴収の対象とした判例からの発展と考えられます。
楽団のコンサートのような「不特定多数への上演」と見なされる演奏ではなく、ダンス教室では「特定少数への演奏」ではないかとが争点となりましたが、申し込めば誰でも生徒になることができるため不特定多数が対象であることは明らかであるとしてJASRACの主張が認めらた経緯があります。
この判例に基づけば音楽教室もまた同じ根拠により徴収の対象となる可能性は高く、合理的な主張であると考えられます。
3 この法律で「大学等」とは、大学及び高等専門学校(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する大学及び高等専門学校をいう。第七条第三項において同じ。)、大学共同利用機関(国立学校設置法(昭和二十四年法律第百五十号)第九条の二第一項に規定する大学共同利用機関をいう。第七条第三項において同じ。)、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第三十条第一項において同じ。)であって試験研究に関する業務を行うもの、特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立 行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第十五号の規定の適用を受けるものをいう。第三十条第一項において同じ。)であって研究開発を目的とするもの並びに国及び地方公共団体の試験研究機関をいう。
– 知的財産基本法 第二条
第八条 事業者は、我が国産業の発展において知的財産が果たす役割の重要性にかんがみ、基本理念にのっとり、活力ある事業活動を通じた生産性の向上、事業基盤の強化等を図ることができるよう、当該事業者若しくは他の事業者が創造した知的財産又は大学等で創造された知的財産の積極的な活用を図るとともに、当該事業者が有する知的財産の適切な管理に努めるものとする。
– 知的財産基本法
知的財産基本法では「大学等」という明確な定義に対し、第八条では運用者たる「事業者」という明確な表現で立場の差を記しています。
ヤマハを例に取れば音楽教室は音楽教室の事業として設立され、現文科省に振興会として認可を受け財団法人を設立したのはその12年後です。
音楽教室は変わらず事業として存在しており(楽譜販売・楽器販売を兼ねて運営されている以上事業ではないという主張は無理があると考えています。)「事業者」としての定義を否定するのは困難であると考えるべきではないかと思います。
例外規定と照合してみてもかなり苦しい主張になりそうですね。
2017.02.28 – 追記
大体想定した通りの内容でJASRACから発表がありました。
今はまだ検討の段階
このニュースは「検討に入った」段階であり、まだ決定ではありません。
対象として名前の挙がった「ヤマハ音楽教室」は楽譜の出版も手掛ける業界の雄です。
本来であればこういった権利問題にセンシティブで有るべきヤマハが名前を挙げられてしまったのはちょっと残念な気もします。
当然ヤマハ程の規模の企業であれば法務部門も無策で首を垂れるようなことはしないでしょうし、係争になることはJASRACも想定の範囲内と考えます。
なにより今回の一件で見過ごされてきた音楽教室の実態調査が動き出して、教室での楽譜の取り扱いやカリキュラムの中で用いられている楽曲が明らかになることでより透明性の高い著作権料の徴収に繋がっていくことへの期待の方が大きいのではないでしょうか?
前時代的なシステムが効率化を妨げている
JASRACの課題は「どこからお金を取るか」ではなく、現在の音楽著作物使用許諾と音楽著作物使用料分配の適正化と効率化だと思います。一案件ごとに使用許諾を申請して送られてくる払込用紙で払い込むという今のやり方では、作家に分配される前に使用料が消えていく気さえします。
— 祥太 (@shota_) February 1, 2017
これはそのやり取りに触れたことのある人なら間違いなく感じている事ですし、10年以上前からJASRACの管理体制の改革は遅々として進んでいないのでは?という気がしています。
かつてのMIDI狩りにも時代の変遷に対して管理団体側が付いて行けていない事が問題を拡大させている部分があり、今回の様に大きいところから順に訴訟を繰り返すやり方では利用者にも権利者にもメリットのある環境が出来るまで相当な時間を要する気がします。
申請の方法についても昔に比べればカテゴリの細分化や説明への配慮などが改善しているとはいえ先にも述べた周知の部分があまりにも稚拙であり、情報のスピードが速い現在に適合するスキームが提供されることが必要なのではないかと考えています。
本当に必要な改革のために
著作権料のロスが減る(適切な利用が周知される)事で事態は改善に向かうと思います。
分配が不透明である部分については報告書や調査結果があるのであれば自分も確認してみたいので明確なソースがあれば教えていただければ幸いです。
ちなみに公式には信託会計で確認することができます。
仮にこういった動きを振興を妨げるという理由で拒絶するのであれば、その負担は確実に全域に及ぶことになります。
この議論は他の分野とも関わりますが、高精度あるいは完全なコピーが複製可能な媒体がある以上著作物の保護をするためには「すべての記録媒体」に対してより高い補償金を設定するという力技での解決策も一環には存在します。
意図的にせよそうでないにせよ、複製が容易にできてしまう以上権利者を保護するためには作品の利用料を何らかの形で徴収する必要があります。
管理団体が無ければ個人がそれを担う必要がありますが、それこそ現実的な話ではないですし管理団体の活動は常にユーザーの反発と権利者の要求の狭間で揺れています。
この状況を改善していくのは正しい運用の周知と、正しい対価の支払いを成立させるための知恵しかありません。
その方法を導くためには問題と真摯に向き合う必要があります。
そこが難しいところで、現実的に権利者が害を被るだけの構図なんですよ。 分配の透明性は全数明らかにすることは可能ですが、それは個人の収支ですし。 本来は利用者の意識向上と簡易な申請システムへ権利団体が取り組むべきなんですよね。 公的に支援するならそこかな。
— みるくここあ@代表取り締まられ社畜 (@milkcocoa_org) February 3, 2017
管理団体としての公正さを保ちつつ真に振興に役立つ活動を提案したり考えて行くことこそ今必要とされていることで、悪戯に騒ぎ立てる事が意味を持つとは思えません。
本当に製作者への対価を支払う事に意義があると考えるのであれば問題を見誤るべきではないと思います。
JASRAC、Nextoneなどの管理団体はそろそろ業界全体の動きとして新しい時代に即した取り組みをするべきだと考えますがどうでしょうか?
裁判になるとすればまた年単位での係争となる事でしょうし、特許庁のパブリックコメント募集などにも注意を払うべきかもしれませんね。
昨今叫ばれている「良い物には対価を支払おう」という理念がここでも生きる事を期待しています。
あなたのコメントをお待ちしています