オーディオインターフェイスを入れ替えるにあたり様々な要件を検討しましたが、長らくお世話になってきたFireWireは規格としてはすでに現役を退いており、USBかThunderboltかDanteかと考えることになります。
昨今はUSB(主にC)での給電を視野に入れた小型のインターフェイス、Thunderboltなどの高速通信規格を用いて内蔵DSPなどの使用を前提としたフラグシップモデルと大きく二分している感じです。
ここではThunderboltでの接続をすることを目的に記事を書いていますが、とりあえずその選択をするのか否かについて検討することから始めてみてください。
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本当にその機器が必要かどうか?
最近ではUSBのオーディオインターフェイスでも高サンプリングレートのマルチI/Oが可能な製品も多々あります。
RMEのFireFaceをはじめRoralndのOCTA-CaptureやMX-1などもI/Oの数は充実しています。
Thunderbolt接続ではないインターフェイスでもマルチトラック録音が可能な製品は存在しますしThunderboltじゃなくってもいいんじゃない?ということも視野に入れてください。
Thunderbolt接続のインターフェイスを選択する積極的な理由があるとすれば、Macユーザーでなんの心配もなく使用ができるであるとか、I/Oが最低でも20本はほしいというプロユースに近い使い方であるとか、機材といえばラックマウントよ、ラックに乗らなきゃロマンがないぜというおかしな人でない限り積極的に選択する必要はないんです。
Universal AudioのSatteliteも初期はMacのみ対応でしたしThunderboltの規格はIntelとAppleの共同開発ではありましたがWindows環境では積極的な採用はされないままでありました。
MiniDisplay portのケーブルと同じコネクタ形状でありながら専用ケーブルでなければ接続できないというUSBが便利に使われている環境において不自由を科すことやWindows環境でMiniDisplayポートの採用がほぼ見られなかったこともありWindowsとThunderboltというコネクトの可能性は望み薄な状態でした。
そんな事情もあってUniversal AudioのようにWindows環境でのThunderbolt接続に関してはノンサポートといった状況がありましたが、Intel Core 10世代からThunderboltはCPUに統合されたのでサポートされるようになってきました。
それでも世代によっては拡張カードが必要であったりマザーボードでの設定変更が必要になったりと気を付けなければいけないことがあったりします。
そういったリスクや手間を押してでもDSPプラグインやレスポンスの良いインターフェイスが必要だと思う方は覚悟を決めて挑んでください。
Thunderbolt規格とは
Thunderbolt規格は現在第四世代であるThunderbolt 4が採用されています。
オーディオインターフェイスなどはThunderbolt 3世代やThunderbolt 2世代が混在しておりこれが混乱の元となっています。
Thunderbolt(第一世代)、Thunderbolt 2までは先にも書いたようにMiniDisplay Portコネクタを使用しており、オーディオインターフェイスでも採用されているThunderbolt 3やThunderbolt 4はUSB-Cコネクタで物理的に互換性がありません。
コネクタ形状が一致する世代に関しては後方互換があるので古い世代の製品を使用することには問題がないとされていますが、Thunderbolt 3/4が前の世代の機器と接続する場合は変換アダプターが必要になります。
具体的に言えばAntelope AudioのDiscrete 8やRMEのFireFace UFX+はThunderbolt 2接続、Universal AudioのApolloやPresonusのQuantumなどはThunderbolt 3接続です。
ThunderboltとThunderbolt 2に関しては世代的にケーブルの供給が少ないことも考慮してください。
現在使っている方は予備のケーブルを買っておいた方がよいと思います。
注意点をおさらいすると
・コネクタ形状が世代で異なる
・新しい世代から古い世代への接続には変換コネクタが必要
・世代が新しい機器との接続はできない
Windows PCにおけるThunderbolt
Core 12世代やZen 3アーキテクチャのハイエンドマザーボードなどにはThunderbolt 4コネクタを搭載しているものもあります。
CPUとコントローラーの統合とPCI Expressのバスにぶら下がっているのでとくに増設は必要ないかもしれませんが、ゲーミング系のマザーボードであることも多く音楽用での使用報告はあまり見られません。
規格の性質上Thunderbolt 4ポートのあるマザーボードであれば問題なく使用ができるはずですが、接続報告らしきものが全くないので搭載マザーの用途がやはりゲーミング中心だからでしょうか。
実際ゲーミング用途でグラフィックボードを搭載している場合、PCIeの帯域の消費も大きくなるのでどのように配分されるかによってThunderboltコネクタが期待する性能を出せない可能性はあります。
CPUが提供するPCI Expessのレーン数はCore i9-12900系でも20であり、x16の帯域を占有するグラフィックボードなどを搭載した場合Thunderboltのフルスピードが出ない可能性があるからです。
(XeonやCore Xシリーズはこのレーン数が多いため多くの機器を安定して動作させることが可能になります。)
もっともオーディオインターフェイスが40Gb/sの帯域を占有してしまうとは考えにくいので問題になることはないと思いますが、eGPUやディスプレイ出力などの帯域を共有する場合は何らかの問題が発生する可能性が否定はできません。
ディジーチェーン(数珠繋ぎ)ができるとされるThunderboltですが、オーディオ、特にDTM作業での安定性を重視した構成にするのであれば用途を限定して環境を構築することをお勧めします。
ThunderboltポートがないPCを使用する
さて、問題のThunderboltポートがないPCの場合はどうするかです。
ノート型PCでThunderboltポートが付いていない場合はどうにもなりません、諦めてください。
デスクトップPCでポートがない場合は拡張カードを搭載することでThunderboltポートを増設することになりますが、マザーボードによってはThunderboltの増設用ピンヘッダがない製品もありますので自分のPCがThunderboltの増設ができるかどうかを必ず確認する必要があります。
仕様として策定されているのか確認が取れていないのですがASUS、AsRock、GIGABYTEといった主要なメーカーのマザーボードでは5pin(と場合によっては3pin)のThunderbolt増設用のピンヘッダがあり、ピンの配列が一致しているためThunderboltのデータ通信用の増設カードとマザーボードとの接続は共通の規格になっているのではないかと考えています。
ただし新しいASUSのThunderbolt 4ポートを増設する拡張カードではピンの多い独自のコネクタを採用しているのでコネクタの形状は注意する必要があります。
各社から自社の製品向けに動作確認を保証した拡張カードは発売されていますが、ASUSの拡張カードであるThunderbolt Exシリーズは日本未発売であったりこれまた手に入りにくいという事情があります。
その中で供給が安定しており、対応が明言されていないものの海外フォーラムなどで多数の動作報告がされている人気の拡張カードがGIGABYTEのGC-TITAN-RIDGE 2.0です。
今回導入したTSUKUMOのワークステーションもASUSのX299-AIIというマザーボードで5pinのThunderboltヘッダがある製品なのですが、ASUSの純正カードが手に入らないのでGIGABYTEの拡張カードを搭載しました。
GC-TITAN-RIDGEはAsRock、ASUS、GIGABYTEの5pin Thunderboltヘッダーがあるマザーボードで接続報告が多数あったので純正以外で挑戦する方に向けての最有力候補だと思います。
ピンの接続に間違いさえなければ原理的にはどのメーカーの拡張カードでも動作するとは思いますが、純正パーツ以外を接続することは各自の責任となりますので覚悟をして臨んでください。
マザーボードの仕様と拡張カードの入手、接続が自力で完了できた方はさらに次のステージへ進みます。
ポートの仕様を設定する
Thunderboltポートが増設できたら、PCのUEFI上でポートを有効にしたり適切な動作レベルを設定する必要があります。
おそらくこの辺りが鬼門であり、設定の内容によって認識ができたりできなかったり正しく動作できる設定がなんなのか掴めなくて使い物にならないと思ってしまう方が多い気がします。
基本的にオンボードでThunderboltポートが搭載されている機種でもUEFIでThunderboltが有効になっているか確認することは必須です。
まずはマザーボード(システム全体)として
・Thunderboltを有効にすること
・接続に関する設定を正しく行い機器とのリンクを確立できるようにすること
・サポートすべき通信要件を設定しクライアント機器が必要とする機能を提供すること
この三点を満たすことが必要になります。
簡単でしょう?(震え声)
それでは順番に設定についてみていきましょう。
ASUS X299のUEFI上での設定ですが必要に応じてお使いのマザーボードの設定に読み替えて下さい。
ASPMを設定する
PCH DMI ASPM – Enable
ASPM(Active State Power Manegment)を有効にします。
SA DMI ASPM – L1 Only
PEG ASPM Support – L1 Only
リンクステートをL1(Low power Standby)に設定します。
完全なリンクダウンやこれ以上の省電力の場合接続がロストするケースが多数報告されています。
Thunderboltを有効にする
TBT Root port Selector – マザーボードに応じて使えるスロットが異なる
一番重要で一番厄介な部分です。
マニュアルなどに明示的な記述はないのですが拡張カードを刺すスロットによっては動作が安定しなかったりThunderbolt機器の認識が不安定になったりすることがあります。
このマザーボードではPCI Expressスロット3ではPCIブリッジに競合が発生したのでスロット2を使用しました。
Thunderbolt Usb Support – Enable
Thunderbolt Boot Support – Enable
Thunderbolt機器からのブートができるようにする設定です。
不要な気もしますが電源管理との兼ね合いで何かあるようでThunderbolt機器(自分の環境ではDiscrete 8)のスタンバイからの復帰認識に影響があるようです。
GPIO3 Force pwr – On
汎用入出力の電源供給を強制します。
これをOnにしないと機器の認識ができません。
Security Level – SL1 User Authorization
機器の認証を行う設定にします。
SL0でないと動かないという報告もあり、この部分は機器のドライバによって設定が変わる可能性があります。
Discrete 8では0でも1でも認識はされましたがスタンバイ復帰はSL1でないとうまく機能していないようです。
GPIO Filter – Enable
GPIOのUSBとのデータを分離する?設定のようです。
有効でないと正常に認識できません。
Enable ASPM – Enable
ThunderboltでのASPMを有効にします。
Enable LTR – Enableが望ましい
Thunderbolt機器がASPM省電力に入った場合の復帰までのレイテンシをホスト側へのレポート有効にする設定です。
省電力によってリンクが不安定化するようであれば無効化する必要があります。
UEFIでシステムの設定を変更したら保存して再起動します。
有効にしたPCI Expressスロットに拡張カードが刺さっていればWindowsのデバイスマネージャーにThunderboltポートが追加されているはずです。
確認が出来たらまずはドライバのアップデートを行います。
マザーボードと購入した拡張カードの最新のデバイスドライバやアップデータを適用しておきましょう。
これはメーカーの公式ページで入手することが可能です。
機器を接続する
いよいよ機器を接続します。
注意しないといけないのはケーブル長でThunderbolt 2/3は1m、Thunderbolt 4でも2mまでしか高速での接続は機能しません。
ケーブルが長すぎると速度が落ちたり最悪リンクダウンが発生します。
これはつまりPCと接続機器の物理的な距離に制限があることを意味します。
この制限に対してThunderbolt光ケーブルは10m以上の延長も可能ですが価格が驚くほど高いのと都合の良い長さがないのであまりオススメはできません。
光ケーブルですので当然電力の供給もできないのでThunderboltから給電する機器の使用もできなくなっています。
Thunderbolt 3はUSB 4/Thunderbolt 4に対応したケーブルであれば使用が可能で、現状そちらのケーブルの方が手に入りやすくなっていますし上位規格のケーブルでの結線の方がリスクが少ないのでそういったケーブルを使うのが良いと思います。
Thunderbolt 2の機器に接続をしたい場合はさらに変換コネクタを通します。
自分の環境ではこの接続ではケーブル長がやや不足していて不安があったのでUSB 4の延長ケーブルを間に一本挟んでいます。
正常に機器が接続できたら機器の電源を入れて一度PCを再起動します。
正常に認識できていればポートに接続された機器が見えるはずです。
SL1のセキュリティ認証に設定してある場合は機器の認証を行い、常に接続するを選択すれば起動時に機器との通信が可能になっていれば常に認識されるようになります。
しかしマザーボードによってホットプラグは機能しないケースがある(どちらかというと大半がそうらしい)ので新しく接続をした場合や起動後に電源のOn/Offがあった場合は再起動してください。
Discrete 8はメニューボタンを長押しすることでPower offを選択できるのですがハードウェアからPower off操作を行うとスタンバイ状態になるようで、この設定にしておくと機器をサスペンドさせながらThunderboltのリンクダウンは発生せず再度メニューボタンを押すとサスペンドから復帰して普通に機器を使用することができました。
こういった機能のある機器なら電源管理周りの設定がうまくできていればあまり不便はしない気がします。
期待した動作ができているか確認する
一通りの設定が完了し、機器が正常に認識できているならば機器のコントロールパネルやレイテンシ設定などを行いDAWで認識が出来ているか確認しましょう。
正常に機器が認識され、ドライバやコントロールパネルでの設定に問題がなければDAWとの接続は問題になることはほぼないと思います。
仮に機器のコントロールパネルが正常に動作しなかったり、DAWに認識がされない場合は機器のドライバが環境に対応をしているのか、接続が正しくできたのか、再起動直後は普通に使用できるかなどを順次確認して問題がどこにあるのかを追いこんで一つずつ解決しましょう。
ほら簡単でしょう?(震え声)
意外と見落としがちなのが物理配線の問題で、ラックマウントしたりノートPCなどで機器の場所を自由に移動できるケースだと単純に配線ができないということもあります。
Plug and Playの時代になかなかの苦行ともいえるWindows環境でのThunderbolt接続ですが、これが可能になることで選択できるインターフェイスが増えるのもまた事実。
使いたかったインターフェイスをあきらめていた人が挑戦するための礎になれれば本望です。
オススメはしないけどね;
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