
2000年に著作権法 付則14条が撤廃されたことに端を発し、2003年から協議が開始されたJASRACと音楽教室を巡る楽曲利用料の対立は2017年に全面対決に突入してしまいました。
あれから5年、東京地裁から始まった裁判は高裁を経て最終決戦の場である最高裁判決を得るに至りました。
最終的な判決としては音楽教室の守る会の主張は棄却され、JASRACの主張の一部(生徒の演奏)は徴収対象としないというバランスの取れた結論に至ったのではないかと思います。
判決の要旨
最高裁への上告はJASRAC側からで、音楽教室での楽曲の使用は著作物の使用であると認められている高裁までの判決からさらに踏み込んで音楽教室での楽曲利用は講師の演奏・生徒の演奏・録音の再生を問わずすべてが音楽教室が主体となる楽曲利用であるという当初の主張を確認するべく行われました。
これについて判決文では以下のように述べられています。
演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。
被上告人らの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。そして、生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。また、教師は、課題曲を選定し、生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが、これらは、生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず、生徒は、飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。なお、被上告人らは生徒から受講料の支払を
受けているが、受講料は、演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。
これらの事情を総合考慮すると、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるということはできない。– 令和3年(受)第1112号 音楽教室における著作物使用に関わる請求権不存在確認請求事件
合理的な内容に落ち着いたのではないかと思います。
音楽教室内で用いられる楽曲について指導に当たる講師の演奏や録音の再生は音楽教室の業務として用いられる使用であり、生徒の演奏はあくまで生徒自身が自主的に演奏しているに過ぎないため生徒の演奏は音楽教室が主体となる著作物の使用ではないという内容が示されています。
使用料は払う必要があるのか?
結論から言えば、払う必要があります。
しかしこれは業務として楽曲を使用して生徒に教授している音楽教室が払うものであり元々生徒が負担するものではありません。
みなさんが普段使用している音楽サービス・サブスクリプションなどで毎月支払っているお金はあくまでサービスの使用料金としてサービスプロバイダが設定したもので、サービスプロバイダが配信の実績と利益に応じて包括使用料を管理団体に支払っている金額とは関係がないことと同じです。
この結果として教室の授業料が上昇するのであればそれは教室の利益が大きく、2.5%という料率が想像以上に大きい場合くらいでしょうか。
個人運営の教室などではそんなことはないと思いますが、母体が大きいところについては裁判をしてでも抵抗したかったということもあるのかもしれませんね?
今後の展開について
高裁で教室の楽曲使用については徴収が認められているため、音楽教室が管理団体に利用料を払うこと自体はすでに確定しています。
今回の判決についてJASRAC側が主張していた教室での利用形態の一部(生徒の演奏)に対しての請求権が否定されたため、当初想定されていた2.5%という料率については再度交渉が行われる余地があるかもしれません。
2000年に撤廃された付則14条は世界的な著作物使用の厳格化の一端であり、昨今ではスマートフォンなどに対する補償金付加など利用者側からすれば納得のいかないものも多いかもしれません。
しかしそれは我々が気が付かないうちに著作物の利用が身近になり、誰でも簡単に動画を作成し、音楽に合わせて新しいコンテンツを生み出せるようになった時代の進歩がもたらした新たなエンターテイメントの領域が出来たからです。
今後も新たなサービスや分野でこういった問題は続いていくでしょう。
それは音楽だけでなくダンスなどの表現やイラストなど多岐に渡ると思います。
自分が手にしている情報が一体誰の著作物なのか、今利用しているデータは権利的にクリアなものなのか?
一人一人が意識しなければならないくらい問題は身近に迫っていると認識していただきたいと考えます。
五年の時を経てようやく決着にたどり着いたJASRACと音楽教育を守る会の係争。
22年も前に撤廃された条文による適用範囲の拡大の決着と考えれば四半世紀近い問題の結論にたどり着いたともいえるなんとも気の長い話です。
著作権の問題は情報分野と密接な関係があり、情報の伝達やコンテンツの制作が容易になればなるほどその問題は大きくなることは21世紀になる前から予見されたものも多かったはずです。
こういった大きな衝突や裁判はもはや他人事ではなく、判決から我々が学ぶべきことが多いということを多くの人に知っていただきたいと私は思います。
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