
関東は連日30度を越える猛暑が続いています。
札幌にたどり着くと普段いかに暑い場所にいるのかを改めて思い知ります。
つい一週間前は影山さん主催のDTMerのBBQに参加させて頂いたばかりですが、今回は札幌でFujiya Instrumentsの藤谷さんとお会いする機会を頂くことができました。
Fujiya Instrumentsと言えば、国産ギター音源として多くの人に愛されるJunk Guitarのベンダーです。
自分自身Ver.0.9くらいの頃からお世話になっていました。
そんなJunkGuitarの製作者である藤谷さんからお会いできそうだとお返事いただくことができたので嬉々としてセッティングの予約をしてしまいました。
軽く食事をしてお話をさせて頂くうちに色々なお話を伺い、勝手ながら自分からも意見などを述べていくうちにFujiya Instrumentsの理念や目指すものの一端を知ることができました。
当初は食事と軽くお話だけと思っていたのでなんの準備もしていませんでしたが、そのままインタビューをさせて頂きたいとお願いしてご快諾いただき、突発のインタビューをすることになりました。
Contents
構想は20年近く前から

藤谷さんよろしくお願いいたします。



でも、とにかく大変で・・・
これが面倒なためにそちらに気を取られてしまって、やりたいことが出来ない、発想力が削がれてしまうのを感じてしまったんです。

そうするとまだMIDI音源の時代ですよね。
確かにそのころのギター音源というか、MIDI音源であったり、シンセのギターの音って言うともう出来上がっちゃった音だったり、キーオンしてキーオフするとすぐに切れちゃう音でしたよね。
コードの音を自分で並べて1Tickずつズラして並べたりとか・・・
とにかく大変で確かに発想力を削がれるというか、入力の手間でやりたくなくなるのはわかる気がします。

やはり一番大事なのはいい曲を作る事だと思うんですよね、作曲をする人にとって。
その為にはその人の発想力というか、その他積み上げてきた技術力・アレンジの知識などが発揮されるないといけないと思うんですよ。
いい曲を作るために手間の方に意識が持っていかれてしまうとそれが難しくなってしまう。
ギターの打ち込みは面倒な作業的な要素が多いのでそういった部分を出来るだけプログラムで自動化して、曲を作る方に使って欲しいなと。
そういうギター音源があったらいいのになといつも思っていました。
その時はまだKONTAKTとかもなくて88ProとかJVとか・・・そういう音源の時代でした。

ギターを含む曲を耳コピーしようとすると、そもそもギターらしい音の鳴り方であったりアプローチの仕方を全部自分の手で全て入力しなければならなくて。
特にギターは六弦あってコードを出せるのが強みではあるんですが、当時のツールではコードを展開するに人の手で入力必要がありました。
それを早い段階から自動化したいという強い意志があって、それがJunkGuitarの発想の原点だったんですね。
だとしたらJunkGuitarの発想は新しいギター音源の草分けだったのかもしれませんね。
こだわりのプログラミング



多分最初に何を一番重視したいか、表現したいかというのを決めたと思うんですけども、そこって多分JunkGuitarを作るコアな部分だと思うんですよ。
JunkGuitarを作るにあたって藤谷さんが一番最初に「これは絶対にやりたい」と思って手をかけ始めた所はどこか教えて頂いてもいいですか?

すごく難しかったです、実現するのは。

ちょっとプログラム的な話になってしまうけど、そこを知りたいとか面白がる人もいるかな・・・;
ギターの音はサンプリングで出ていますけどギターの弦がどのタイミングで弾かれて、どのタイミングで鳴って、どこで減衰するとか弾き方一つとっても変わるじゃないですか。



サンプリングの時って演奏しているのと完全に同じ音を出すのって難しいんです。
演奏の時に身体の使い方や筋肉の使い方を同じようにしないといけないんですね。
それでもできるだけ自然になるように注意して、弾く強さだったりピックの当て方だったり・・・何より余計な音が鳴らないようにw
そういうことがあるのでサンプリングの時は凄く気を使いました。

演奏の最中になる音と単発の音が違うっていうのは他の楽器でもそうですけど、一音だけぱーんとすごく綺麗な音を鳴らす事は結構簡単だと思うんですけど、その音は演奏中、例えばアルペジオの中には出てこないですし、自然さを出すためのニュアンスというかそういう録音の仕方っていうのは今言った筋肉の使い方などって言うのは定量化出来る物ではないじゃないですかw




サンプリングの一つを取っても藤谷さん自ら手をかけて時間をかけて作られているっていう事ですね。

それが非常に打ち込みの時に面倒くさくて、なかなかやっている人がいなかった。
本来のギターのアレンジを打ち込みでやってる人はほぼいない・・・と言っていいくらい珍しいですね。
その部分を手間がかからないようにすれば、ギターならではの美味しいアレンジができるんじゃないかな?とやってくれるんじゃないかと思って作っています。

いや、今もまだ全然なんですけども;
JunkGuitarを使うようになってコードモードであったりとかマルチモードを使うようになってギターらしい鳴り方ってあるなって。
自分は管楽器出身なので、和音っていうのはクローズドボイシングで何音かが近い場所で同じタイミングで鳴って・・・っていうのがあればいいと思ってたんですよね。
これではギターらしいアレンジなんて全くできなかった。
でもコードモードなら5th、4thにMajorもMinorもSus4も一発で鳴らせちゃう。

シミュレートコードモードってあるんです。
和音を押さえるとなんの音を押さえているのかを自動で認識してギターのボイシングにしてくれるようになっています。
他にストロークが選べる領域があって、ジャンと全部の弦をダウンアップで弾くところもあれば一つずつの弦を弾いたりとか。
あとは低域の所だけ弾いたりとか、真ん中の所だけとか上の方だけとかできるようになっています。
ギタリストがストロークを弾くときに頭の所は全部の弦をジャーンと鳴らしても途中のアップは上の方しか鳴らさないとかそういう演奏を簡単に、実際のギターと同じように鳴らせるようにプログラムされています。




一つは弦の動きを追ってシミュレートしているので、一度ジャランとストロークで全ての弦を鳴らした後にアップで1,2,3弦だけ鳴らした場合、1,2,3弦の音だけ止まって他の弦の音は鳴ったままになるようにしています。
コードストロークに関しては簡単で一番リアルに出来てるんじゃないかなと思っています。

そこまで喋っちゃっていいのかなってw

多分これくらい簡単にカッティングとかスライドの演奏が入力できるものは他にないかなと思います。



そういう点ではこの操作でスライドができますって操作があるっていうのはやはりギターができない人間からするとすごく有難い機能だなあと思います。


20年間の積み重ねでここに至ったという事なんですねえ・・・
自分の思う「いい音」の芯があるからサンプルの追加ができた

DTMを初めて割とすぐに自分の師匠から冗談で「お前はサンプリング音源を作れ」と言われましてw
それからですかね、数年後に最初のバージョンを無償で公開したのは。


0.01とか・・・多分知ってる人はほとんどいないと思います。
一番最初はパワーコードが弾けるだけの音源だったんですよ。
そこから少しずつ録っては追加していって・・・

基本的に録音の環境って時間が経つと変わってしまったりもそうですし、弦を交換してしまったりとか弦の状態とか、楽器のコンディションとかで音が変わってしまうじゃないですか。



偶々だったんですけども、サンプルを追加したのはベロシティレイヤを組む・・・同じ(強さの)所ではなく違う(強さの)部分だったから自然にすることが出来たという部分があります。
あとは一番最初にサンプリングした時にこのギターはいいぞっていうだけではなくて、この弦は凄くいいからずっと使っていこうと決めていた弦がありまして、あとで迷って弦を変えたりすることもなく続けていられたからですね。



変な言い方なんですがw
管楽器の奏者って割と浮気者というか、新しいマウスピースでたからちょっと使ってみようだとか、リードなんかも凄くばらつきがあるものなんですよ。
そういうのを使ってこれは凄くいいからコンサートに使おう!!とか言って保管したりするんですが、自然の物なので湿気の状況とかでもコンディションが変わっちゃうのであとになってからやっぱりこっちがいいなとか結構コロコロ変わる事もあるんですよ。
そういう意味でもこのギターと、この弦とっていうような、一つ筋の通った部分がJunkGuitarっていう音源を支えるバックボーンだと思うんですよね。
楽器とプレイヤーの信頼関係のようなものが感じられるというか、音楽を齧った事のある人間からするとちょっとときめく話だなあと思います。


ヘッドホンではないですけど、エイジングというかちょっと馴染んだ方がいいとかいうものもあったりしますけど、却って新鮮な弦っていう開けたばかりの状態の弦を使っていたから音の粒とか響きがまとまりやすかったのかもしれませんね。
もう一つのこだわり、Organic Fingered Bass

ベースも演奏されていたって先ほどちょっと聞きましたけど。

当時教えてくださった先生は熊谷望先生という札幌の方でして。

名前に憶えがありますよ。

T-Squareの方と一緒に演奏したりとか・・・


札幌にいた時に・・・そうですね4~5年くらいは教えて頂いていました。
その後東京に行ってですね、別の先生から「お前のベースは乱暴だ」とか言われてですねw


時間に対してもっとこう感覚を研ぎ澄ますことが大事だと、メトロノームに合わせてもっとこう時間をコントロールできるように叩き込まれる時期がありました。
それから演奏を録音したりするじゃないですか。


一つは演奏技術がまだまだ未熟っていうのもあるんですけど、カッコいい音が出ないっていうのもあるんですよ。
ギターって結構10万円くらいのギターでもカッコいい音を出したりできるんですけど、ベースだとそのくらいの値段だといい音を出すのって難しくて。
本当にいい音が出るベースっていうのを探さないといけないんですよね。
結構頻繁にベースを買い替えてみては試してみて、あれなんか違う・・・ってのを繰り返した時期があって・・・w


もう・・・15年くらい前かなあ。
そういう試行錯誤をしてた時にですね、Scarbeeからベース音源が出たんですね。
当時は・・・KONTAKTではなくてですね、GIGA版だったと思うんですが。
そのベース音源の音がなんだこれは!!滅茶苦茶音がいい!!と。
それでこんないい音がするベースがあるのかと思って、どこのメーカーのベースを使ってるんだって調べたんですよ。
それがCelinderってメーカーだったんです。
そのメーカーの楽器は日本でも売ってるのかなってすぐに探したんです。
それを取り扱ってのがSleekEliteさんだったんですよ。
すぐに問い合わせてみて、Celinderのベース置いてますか?って聞いたら、ちょうど一本だけ置いてありますと。


それで悩んだんですが、物凄く値引きしていただいて。
それでもすっごい高いんですけどねw


そのベースの音が当時自分の求めていたベースの音だったんですよね。

熱い話だなあw
Scarbeeのベース音源に衝撃を受けて、そこから探しだしたベースを使ってようやく自分の求めていたベースの音が出せるようになって形になったのがOrganic Fingered Bassだったんですね。

こだわりの末だとりついた音源だった

JunkGuitarといいOraganic Fingered Bassといい、自分の求めた音の集大成がここにあるっていう感じなんですね。



そのScarbeeのエンジニアの方からJunkGuitarは凄くいいよってメッセージを頂けたんですよ。
それが凄く嬉しかったですね。





これは凄い事ですよね。
自分のやってきた事は間違いじゃなかったていう、一つの成果ですよね。
製作者冥利に尽きるというか、中々ない事だと思いますよ。
ここまで堅実に積み上げてきたものが導いた結果ですよね。


使う時に頭を下げて一礼してから使おうかなと思うくらいw
ここまで制作に至る過程ですとか、苦労話とか楽器の事とか色々お話頂きましたけど、藤谷さんとしてJunkGuitarとOrganic Fingered Bassをベースに今後どういった展開をしていきたいという展望などはありますか?

その次は本当にクオリティの高い音源を作るという意味では(うちでは)ギターとベースの音源しか作れないので、対応できるジャンルを増やしていくという意味でもストラトの音源なども作っていきたいなあという希望はあります。予定ですけど・・・w
ベース音源に関しても、自分の思うプレベの音はこれだ!!っていうのをw



では、藤谷さんが求めるものを追うにあたって今のJunkGuitarやOrganic Fingered Bassを愛用している方に挙げていただきたいフィードバックやユーザーが求めている「何か」を聴きたいとか、受け取りたい何かってありますか?

言葉で言われるよりも曲を聴いた方がどこが使いにくくてこうなっているのかっていうのが分かるんです。
何より音源を使って頂いて作られた曲を聞かせて頂けるっていうのが一番嬉しいです。

いま聞いていてちょっと面白いなって、音楽をしているというかすごくプレイヤー的な発言だなって思いました。
元々自分もプログラマーだったので、お客さんからのリクエストってここをこうしてくれっていう割と明確な言葉としてリクエストされることが多いんですよ。
でも藤谷さんは言葉ではなく音を聞かせて欲しいという、これはやはり音楽家というかプレイヤーとしての経験からの言葉だなあって。
高い技術でプログラムを制作される藤谷さんという人物と、ギター・ベースプレイヤーとしての藤谷さんという人物がちょうど重なる部分がそこなのかなと思いました。

今回は凄く色々なお話を聞かせて頂いてとても勉強になりました。
本当にありがとうございました。

終わりに
非常におおらかな雰囲気の藤谷さん。
お話しをしてみるとやはりおおらかで、堅実に自分の道を行く努力の人だなと感じました。
反面こだわりを追及する情熱もあり、エンジニアとしての冷静さとプレイヤーとしての熱量をバランス良く持っている方なのだなとも思いました。
だからこそ長く音源をメンテナンスしながら確実に機能追加を続ける事が出来たのだと思います。
藤谷さんの想う“世界に通じる日本の音源”ができる日もそう遠くないのかもしれません。
KVRでFujiya Instrumentsが絶賛される日が来ることを楽しみに待ちながら、微力ながら応援していきたいなあと思いました。
あなたのコメントをお待ちしています