音楽教室を運営する団体で構成された音楽教育を守る会との衝突が記憶に新しいJASRAC。
今度は映画館に使用料を求める事を発表しました。
言われるようにCDの売上が下がった事で徴収を焦っているのでしょうか?
今回も背景を調べてみたいと思います。
2018/08/01 – 追記
JASRACのサイトに映画音楽作家からのコメントと映画音楽からの徴収実態についての資料が掲載されています。
日本の作家として坂本龍一からも作家の権利保護を訴えるコメントが寄せられています。
映画における音楽の使用料とは?
JASRAC使用料規定の中に映画での著作物の使用について明確な規定が記述されています。
つまり映像作品内で音楽が使用された場合、その使用実態に応じて著作権料は徴収されることになります。
映画の中では様々な音楽が使用されている訳ですし、主題歌ともなれば作品全体の顔とも言える部分ですので著作権料が徴収されることには何ら問題がないと考えられます。
今回JASRACは1作品につき一律18万円の定額制となっている外国映画について興行収入の1~2%を徴収すると方針を改めると発表しています。
しかし斜陽と言われる映画業界に負担を強いる変更は当然歓迎されません。
強硬な反発も予想されます。
なぜこのような決定をしなければならないのでしょうか?
管理委託契約約款 第16条
映画の使用料規定については前項で紹介した通り国内作品についてはJASRACの定める使用料規定に基づいて使用料の徴収が行われます。
その規定に対して上位に位置する条件が著作権信託契約約款の中に記載されています。
(使用料等の徴収及び分配)
第16条
受託者は、信託著作権に係る著作物が使用されるときは、次の各号に掲げる著作物使用料等を徴収し、又は受領する。
(1) 使用料規程に基づく著作物使用料
(2) 教科用図書その他の補償金
(3) 著作権法第104条の2第1項の指定管理団体から分配される私的録音録画補償金
(4)外国著作権管理団体等から収納する著作物使用料
(5) 前各号に掲げるもののほか、著作物の使用に伴う対価2 前項第1号の規定にかかわらず、次の各号に掲げる利用形態について委託者が指定したときは、委託者がその使用料の額を定めるものとする。ただし、第2号にあっては、著作物の固定に係る使用料(基本使用料)に限る。
(1)映画への録音(外国作品に限る。)
(2)ビデオグラム等(カラオケ用のビデオグラムを除く。)への録音(外国作品に限る。)
(3)ゲームソフトへの録音
(4)コマーシャル送信用録音
(5)出版(外国作品に限る。)
第16条の第2項では使用料規定に基づく著作権使用料(第1項)の徴収に対して例外的に委託者(著作者本人)が使用料を決定できるという特例について記述がなされています。
この中で特に目を引くのは“外国作品に限る”と明記されている部分です。
これは一体何を意味しているのでしょうか?
Syncronization Rights
聞きなれない言葉ですが、Syncronization Rights(シンクロ権)という言葉があります。
海外では一般的な形態で、楽曲を映像作品などに同期させる(Syncronization)事を指します。
楽曲制作者が自身の作品を望まない作品の劇伴として使用されないよう意思決定を可能にするための権利で、日本でいうところの著作者人格権の一部と考えられます。
この権利の使用料は権利者が決定する(指値)ことが一般的であり、利用形態によっても異なりますがアメリカの大手映画製作会社などでは$15,000~$100,000(約150万~1,000万円前後)と言われます。
一方日本ではこの部分は使用料規定における市販ビデオグラムへの録音使用として類されるため1曲1分あたり800円と信じられないほど低価格となっています。
(だれかな?守銭奴って言った人は?)
このように諸外国において音楽に対する対価の支払いは著作者自らが権利を行使し、作品に対する正当な報酬を受け取る事が出来るようになっています。
先の管理委託契約約款16条における外国作品への例外規定は海外基準と同様に使用料に権利者の意向を反映できるようにするための物です。
上映の使用料は
映像作品内で楽曲を使用する場合、特別な権利があることは分かりました。
これを見ると音楽教室の件でも誤解された「楽譜を購入しているから使用料は払っている」と同じような構図で誤解されてしまいそうです。
しかし当然楽曲を使用した映像作品を実際にスクリーンで上映するには使用料が必要となってきます。
この使用料について現状では大半を配給会社が支払っています。
そのため上映の実績という観点が存在せず、あくまでも配給数に応じた額でしかありません。
海外作品については録音使用料の100分の20という大雑把な計算で金額が固定されている状態です。
これが今回変更の対象となっている1作品18万円という金額の正体です。
この内容についてはキネマ旬報社の2012年のレポートで確認できます。
=上映に関わる権利=
音楽を使用して制作された映画が劇場で上映される際には、録音とは別に使用料の支払いが必
要になる。支払いの責任を負っているのは、一義的には劇場ということになっているが、現在は、
ほぼすべての使用料を配給会社が支払っているのが実状。ここでも、洋画と邦画に分け、細目は
省いて簡単に整理してみよう。洋画:JASRAC と全興連との契約によって、1 作品あたりの使用料が「録音使用料の 100 分の
20」という規定の範囲内で定められている。つまり、“ 作品単価 ” が決まっているということで、
全編に音楽を使用しているミュージカル映画であっても、あまり使用されていないドキュメンタ
リー映画であっても権利料は同額ということ。邦画:「録音に関わる使用料× 100 分の 20(5 分の 1)×プリント数」と定められているが、100
分の 20 という係数は、当面の措置として 100 分の 5(20 分の 1)に置き換えられている。“ プリ
ント数 ” がパラメーターに入っているのは、現時点では、事実上すべての使用料を配給会社が支払っ
ているため。例えば、通常の映画で 2 曲の楽曲を使用したとすると、録音の使用料は 5 万円× 2 =
10 万円となり、その 20 分の 1 は 5 千円。プリント数が 100 であれば、この映画の上映に関わる
権利使用料は 50 万円となる。
5年以上前から検討されている話題であり10年以上交渉してきた音楽教室の問題同様、いよいよ動かざるを得なくなったというのが実情なのではないでしょうか?
何を変えたいのか?
権利者としては自身の作品が広く利用されればその利用実態に応じて収益が増える事を望むはずです。
当然大ヒット映画を彩る楽曲として採用されることは名誉もありますが、同時に収入の増加を期待するのは当然と言えば当然です。
しかし、日本でも映画が上映されて大ヒットしているのに日本からの使用料が全く変動しなかったら?
権利者としては不服の申し立てをするでしょう。
良い物には対価を支払うべきであるというよく見かける姿勢とも反するのではないでしょうか?
今回の報道の内容はこういったケースで使用実績に応じた使用料を徴収するために、実際に興行を行う映画館に対して興収からn%の使用料を支払ってくださいという話なのです。
一見すれば非道な仕打ちのように見える今回のニュースですが、現状維持のままであれば不幸になるのは映画ファンです。
日本での上映では楽曲がどんなに上映されていても使用料が増えないという事が続くようであれば、楽曲権利者の望まない上映先としてメジャータイトルが日本で上映できなくなる可能性も考えられます。
追記
及川先生も懸念を表明しています。
著作者は自身の作品の使用について選択権があるのですから、正当な報酬を払ってくれない日本の映画館では上映を許さないという言い方も可能です。
こういう記事が出ると条件反射的に「JASRACぼったくり、潰れろ」みたいな意見が飛び交うけど(そしてそれを言ってる人の大半は著作権のことを知らない)、興業にかかる正当な対価は支払われるべき。でないと本当に日本から音楽家がいなくなってしまう。https://t.co/t2Y663QMkT
— 及川眠子 (@oikawaneko) November 8, 2017
勿論、だから言う通りでいいとは言いません。
料率の交渉や現実的な施策については全興連とJASRACの間で調整は続くでしょう。
結果がどうなるのかはまだ分かりませんが、実態を踏まえたバランスの良い決定がなされる事に期待をしたいですね。
今までの記事でも取り上げて来たように、世界的には著作権の運用は厳格化の方向へ向かっています。
今回のニュースもその一環なのでしょう。
逆に日本は映画のチケットが世界的にも高額であるとされています。
この背景には全国一律の価格であったり、配給会社と映画館の力関係もあるため容易に価格を下げられないという事情があります。
映画をたまに見に行く身としてもこの辺りを見直した方が全体としての入場者数も増えるのではないかと思う部分ではあります。
もしかするとこの出来事が旧態依然とした映画の観賞料に何らかの変化をもたらしてくれるのかもしれませんね。



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