
2019年12月15日。
中野heavysick ZEROにてTHE 30thAnniv. KEISHI YONAO MasterPIECE #2 ~ LIVE「METAL SIGHT」 が開催されました。
30年。
一言では語れない時間と様々な想いがその日、その場所にはありました。
自分などがそれを語っていいのか?
そう思っても、ここに書かなければ治まりようのない「若さの迸り」を呼び覚まされてしまったのだから。
書くしかないんです。
Contents
俺とメタルサイト
X68000のゲームタイトル、メタルサイト。
恐らく当時のパソコンユーザー(多数派は88/98ユーザーだったのだ)の中でも名前を知る人は多いとは言い難いタイトルかもしれません。
全く無名の新興ソフトハウスだったチームクロスワンダーから発売されたそのソフトは所謂スペースハリアータイプのゲームでした。
会場でOh! Xでライターをしていた西川善司さんが書いたという紹介記事の時はまだ68ユーザーではなかったので残念ながらその記事を読むことはできませんでした。
自分が68ユーザーになったのはソフトの発売から3年後、高校生になってからの事でした。
X68000 Superのユーザーになった事でベーマガやOh! Xを買うようになって、ゲームレビューを読んではあのソフト欲しいなあなどと考えながらゲーム作りの真似事をしていました。
そんな頃、普段出入りしていたパソコンショップのゲームコーナーで値下げされていたソフトをふと手にとり何となく買って帰ったのがメタルサイトでした。
当時はインターネットがある訳でもなく、パソコン通信でゲームレビューを見るなどという事もなく、本当にただの気まぐれだったと思います。
ディスクを差し込んでパソコンを起動すると、この頃のゲームの例に漏れずオープニングデモが流れ始めました。
最初はありがちなやつかなあ・・・と思いながら見ていましたが、オープニングのイントロが終わった所から思わず前のめりになりました。
突然FM音源のベースが暴れ出したからでした。
Genocide 2のアニメーションとオープニングのサウンドを聞いた後でしたが、メタルサイトのオープニングに流れるLast Periodには惹き込まれてしまいました。
その背景で(前景で?)ちょっとしたアニメーションとシナリオが流れていましたが、サウンドで思わず乗せられてしまったのでいい感じに飲み込むことができました。
実際メタルサイトのシナリオは今じっくり見返してみても面白いものだったと思います。
そしてゲーム本編をプレイした時にまた驚きました。
このゲーム全くキャラ欠けが発生しない!!
疑似スプライトで画面を構成しているのですから当然と言えば当然なのですが、後からソフトを購入した自分にはその辺の予備知識がなかったので一体どうやってこれほど大きなスプライトをキャラ欠け無しで動かしたのか遊びながら考察したりバイナリを覗いてみたりとよくない深みへハマったのも思えばここからだったのかもしれません。
この当時は作曲家ヨナオケイシさんという名前を知りませんでした。(メタルサイトのOPでは作曲が安芸出さん名義だった)
縁はゲームが繋いでくれた
時は過ぎて、DTMを齧ったりウィンドシンセを弄ったりを相変わらず続けていました。
ゲームミュージックが大好きというご縁でhasuさんと知り合い、hasuさんの超絶アレンジの中にLast Periodの名前が出てきた時は思わず声が出ました。
hasuさんのアレンジ動画の中で作曲がヨナオさんであるという情報を知り、ヨナオさんの曲を調べてみてまた驚いたのがあすか120%シリーズなどプレイしたシリーズの作品の楽曲も手掛けていたことでした。
hasuさんとはグラディウスのメドレーから知り合って以来この人はなんてツボな曲を・・・と思っていたのですが、蓋を開けてみれば同じ場所にたどり着きました。
そんなhasuさんからヨナオさんのライブがあるんですがどうですか?とお声がけ頂けたのは本当に嬉しいお話でした。
強引にでも予定を調整してでも行くしかない。
俺とメタルサイトの記憶は、ヨナオさんの30周年記念ライブで完成するんだと勝手に考えていました。
二台のX68000によるDJプレイ
見出しからして何かおかしい感じがしますが、二台のX68000によるOPM版アレンジのDJプレイが来場者を迎えます。
DJはhallyさん。
この方はチップチューンのすべてを執筆された方で、日本で最古のチップチューン情報サイトVORCを開設した方です。
ゲーム音楽好きからすると神様の一人と言えます。
もうこの時点で既に「ヤバイ」のですが、このライブのヤバさは本当にとんでもない世界でした。
hallyさんは本日の司会進行も務め、30年という時間を越えた様々なエピソードを引き出してくださいました。
5時間という時間があっという間に感じるほど濃密なライブはここからスタートしました。
当時を語るトークショー第一幕
17:30からはトークショー第一部としてヨナオさんを筆頭に当時を語るゲストがステージに立ちました。
Oh! Xのライターで、現在はテクニカルジャーナリストとして各方面で活躍されている西川 善司さん。
X68000でZ-MUSICというサウンドドライバを開発された方です。
同じくOh! Xでライターをされていた高橋 哲史さん。
A列車で行こうのPS2版などに楽曲で参加され、サックスやピアノの演奏動画でも人気のけんたろさん。
雷電シリーズのBGMの作者の佐藤 豪さん。
そしてヨナオさんの楽曲やコナミの楽曲を聞いて育ち、ご本人もゲームミュージックの作曲家として活動されているhasuさん。
1990年~2000年の時代をリードした面々が集うとんでもないステージ。
hallyさんによる1989年のX68000周辺事情についての紹介や西川さんのスライドによるX68000というハードウェアの紹介とMIDI音源、oh! X紙面で紹介したメタルサイトの記事についての裏話など、おおーという歓声や笑いがこぼれるようなトークが展開されました。
特にMIDI音源の変遷、メタルサイトも対応していたMT-32については当サイトでも紹介しましたがアタックをPCMで再生しサスティンをシンセで鳴らすというLA方式というユニークなものからメモリのコストダウンによってROMの大容量化、サンプリング音の容量増加でSCシリーズへと発展し、CDドライブの普及によって1990年半ばには役目を終えていった事をみなさん頷きながら聞いていました。
oh! Xで実際にプレイレビューを書いた西川さん以外の方々のメタルサイトとの出会いやヨナオさんの楽曲との出会いについてのインタビューに続き、ヨナオさんご本人がヨナタン名義でMDXファイルをパソコン通信で配布していたバージョンの話や、アルバイトをしてX68000を買った話、友人の家でメタルサイトを遊ばせてもらった話、通信カラオケ用にRCPデータを納品していた話など懐かしさと驚きの続く濃密なトークが続きました。
1989年から1990年代前半は16bitパーソナルコンピューターの全盛期であり、決して高くない限界の中で試行錯誤が繰り返された時代でした。
僅か8音のFM音源とPCMに集約された制限の中で研ぎ澄まされてきたものが、MIDI音源の出現によって一気に制限から解き放たれて自由度が上がった時代でもありました。
それでも今の環境から見ればまだまだチープなものだったかもしれませんが、激変した表現力に惹かれて音源を手にした人も少なくありませんでした。
また標準のサウンドドライバでは不足した機能や扱いやすさを求め、情熱で自らサウンドドライバやプレイヤーを作成した方もいました。
そういった人たちが当時を彩った様々なゲームへ楽曲提供や、カラオケの音源制作などをされていました。
今のようにとりあえずやりたければ道具はなんでも揃うという時代ではありませんが、何もなかった場所に道を切り開こうと突き進んでいた人達にとってこの空間は当時を懐かしむだけではなく、そこを駆け抜けてきた戦友のような存在なのかもしれませんね。
トークショー第一幕は1時間でしたが、あっという間の一時間でした。
梅垣ルナさんによるアレンジバージョンライブ
小休憩を挟んでからはキーボーディスト、梅垣ルナさんによるアレンジバージョンのソロライブでした。
梅垣ルナさんと言えばロックマンゼロシリーズでの楽曲や、最近ではぎゃる☆がんにも楽曲を提供されている作曲家でもあります。
ご本人もライブレポをアップされていますのでそちらも是非ご覧ください。
ご本人も仰っておりましたが物凄く緊張されていたようで、一応ステージに立つものの端くれとしてもその空気は感じ取れました。
ヨナオさんが梅垣さんのアレンジは僕が嫌なことは全然しない、ああこうだよねって思うんですと仰っていましたが、聞いてなるほどと思いました。
梅垣さんのアレンジバージョンであるEverlasting Periodは先行発売のアルバム収録曲なのでまさにここが初披露でした。
ロックテイストな原曲が情感豊かなピアノアレンジに仕上げられていて思わず聞き入ってしまいました。
三曲の演目の内一曲がメロディオンだったのもユニークでした。
もちろんそのアレンジ曲もアルバムには収録されているのでアルバムでも是非聞いて欲しいと思います。
禁断の話題も飛び出すトークショー第二部
タイムテーブルを少し巻きながら進行して、ソロライブ後の小休止から再びトークショーとなりました。
第二部の登壇はゲーム開発サイドの面々でした。
あすか120%等に携わった元フィルインカフェの今泉 正捻さん。
SEGA AGES等の移植を担当されている有限会社M2のほりいなおきさん。
美少女ゲームなどの開発や楽曲制作をされているせんたろさん。
進行はhallyさん、そしてヨナオさんの5名による第二部トークショーは内容もとんでもなくディープでした。
今泉さんのフィルインカフェの開発時のエピソードから、人数が増えたことによって・・・というお話など。
これはメタルブラックの仙波さんの回顧録でも同じ話があった事を思い出しました。
それでも熱意で乗り切ってしまうのが凄い所なのですが、大変な苦労があったと思います。
そしてその中で突然引っ張りだされた禁断のアレ。
一瞬「!?」と思いましたが、まさに歴史の中に眠る至宝だと思います。
せんたろさんは美少女ゲーム楽曲の制作についてのお話でしたが、ここで飛び出したサウンドドライバ「アルトラマリン」が自分の中ではスマッシュヒットでした。
当時はCD-ROM標準搭載のパーソナルコンピューターが当たり前になり、ゲームハードもCD-DAで音楽を鳴らせるようになったことで「そういうもの」という認識が出来上がっていた時代でしたが、そんな時代にMMLデータでドライブできるソフトウェア音源を敢えて作ったというエピソードだけでワクワクしてしまいました。
音源の方式としてはプレイバックサンプラーですが、短いループを16Track鳴らす事が出来るというもの。
SFCに近いものと説明されていました。
実は自分はこのドライバについて知らなかったので帰宅してから調べてhallyさんのツイートで確認をしました。
しかもこちらも20年越しのアルバム制作を行う事が決定して20年ぶりにドライバのアップデートをしたというから驚異的ですw
第二部はテーマにそって今泉さんやせんたろさんが話して、それに対してほりいさんがギリギリまで切り込むようなスタイルで終始楽しい(危ない)空気でした。
こういったチャレンジ精神にあふれた方々が集まって、面白い事が作られていくという事を体現するかのようなディープなトークショーでした。
最後は最高のテンションへ
ライブのファイナルはヨナオさんを交えたゲストの方とのライブとなりました。
佐藤 豪さんとアンドーさん、ヨナオさんのトリオによるアレンジバージョン。
ウィンドシンセプレイヤーとしてもEWI参加のアレンジは垂涎ものです。
なにより佐藤 豪さんとヨナオさんが目の前で演奏しているという光景が見られたという事だけで感激してしまいました。
続いてはギターの和田 新平さんとヨナオさんのコンビでの演奏でした。
こちらはアルバム収録のInto the shadowのアレンジから、ギターの和田さんの指が凄かった。
アルペジオをガンガン弾いてカッコいい!!
指板の上を走る指が熱かった。
そしていよいよライブのシメとなる最後の曲はhasuさんのアレンジバージョンのLast Periodでした。
5時間という長丁場のライブでしたが、最後の曲でも来場者はリズムに乗っていました。
もちろんこのアレンジもアルバムに収録されていますので、是非是非聞いてください。
ライブを終えて
リアルタイム世代であった自分やhasuさんはもとより、今回は一緒にライブに参戦した格ゲーマーな嫁はあすか120%でヨナオさんの曲に触れていました。
先日、メタルサイトライブに友人夫婦に来てもらったのだけど、奥様もゲーマーではあるもののヨナオさんの関わったタイトルにはご縁は無かったかな……と思いきや、あすか120%を遊び倒していたという事が発覚。
うーん、ヨナオケイシはいつでもあなたのそばに。 という感じ。— hasu (@hasu2010) December 18, 2019
そんな話や演奏された方や登壇された方のこんなところが凄いんだ!!という話をしたところ
「そんな凄い人の集まりになんでお前が混ざってんの?」
という実も蓋もない感想を貰って塩の柱になる事でライブ終了の実感がわきました。
実際、登壇された方の他、ライブに参加されていた方々もレジェンド揃いな訳で、ただのパソコン小僧でしかなかった自分がこんな素晴らしいライブを見る機会を貰えた事は本当に幸運でした。
そして何より、凄いな、カッコいいなと憧れている人達に近づくためにひたむきに努力することの大切さ、人の縁の素晴らしさを改めて感じさせてもらいました。
ライブを盛り上げてくださった皆さん、ヨナオケイシさん、そして声をかけてくれたhasuさん、本当にありがとうございました!!
書きたい事が山ほどありすぎて、纏まりもつかないし読みにくい事この上ないライブレポートになってしまいました。
会場でも語られた「若さの迸り」を思い出してしまったからには、もうそのままを書くしかありませんでした。
ヨナオケイシさんの30周年企画はまだまだ続きがありますし、佐藤 豪さんのバンドのライブや他の皆さんの今後の活躍からまだまだ目が離せません。
メタルサイトというゲームの集大成を一つ目にすることはできましたが現役の音楽家である皆さんのこれからの作品をファンとして楽しみながらこれからも注目していきたいと思いました。
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